[送料無料]　砂防学概論　土木教程選書　東三郎監修　高谷精二編著　古本

カバーなし。汚れなく良好。
ページ内書き込み無く良好

まえがき（一部抜粋）

日本の国土は狭く、山地災害は後をたたない。砂防はこのような山地災害に 対処する技術として生まれ、長い歴史を有している。明治時代以前には山村社 会の伝承技術として伝えられ、明治以後は大学という制度の中に取り入れら れ、ヨーロッパの技術を中心に砂防工学として歩んできた。この間、社会情勢 の変化にともない砂防の内容も変化し、例えば、海岸砂防の占める割合が減少 する一方で、海岸松林の松くい虫被害が関心を集め、さらに大きな規模を占め る海岸保安林は、リゾートなどの開発対象地として注目されるようになってい る。また、近年は日本でも酸性雨による森林の被害が顕在化しはじめ、樹木の みでなく、溪流に生息する魚や昆虫などをも含む、環境問題の一環として砂防 を考えなければならなくなるのは避けられない趨勢であろう。

一方、これまで砂防が対処してきた場所を考えると、常に人々の日常から離 れた深山奥山や海岸の砂丘であった。それ故に、砂防技術によりつくられたも のが人々の目にふれることはほとんどなく、いわば縁の下の力持ち的な存在と 言われ、またそのことを自認してきた。

しかし現在、人々は夕食後のコーヒーを楽しみながら、テレビに映しだされ たパリで開かれたファッションショーの後に、巨岩を軽々と運び流れる土石流 の模様を見ることができる。また観光バスで山岳道路をのぼってきた人が、よ 〈暖房のきいた車中から渓谷と紅葉の美しさを愛でながら、視野の端をかすめ た砂防ダムの白さに対し「自然景観を壊す」と軽い感想をもらし、瞬時にして 環境評論家に変身することができる。一方、都市周辺に造成される住宅地に隣 接する小河川には、砂防ダム、床固工、流路工などがつくられ、かつては一般の 人々には接することがなかった砂防施設を見ることができ、ここで生じる堆砂 やその影響による生物相の変貌を、身をもって知ることができる。